真咲輝司 Rehabili knock

大学病院で勤務する理学療法士

【心不全の最新のトピック】心不全の新しい指標

心臓は、自律神経と密接に関係しており、健常の場合は交感神経と副交感神経が規則的にバランスをとっています。

しかし、心疾患や脳血管疾患などコンディションが障害されていると、多数の有害事象を生じることが報告されています。

例えば、副交感神経刺激が減ることで心機能低下と関連があることも明らかとなっていたり、またアドレナリンの活動は、死亡率と大きく関係しています。

このように心臓と自律神経及びカテコラミンの関係は密接に絡んでいます。

 

そんな中近年これらの自律神経・カテコラミンに加えて新たな心機能の指標となる神経伝達物質が明らかとなりました。

ニューロペプチドYという神経伝達物質です。

 

心大血管疾患領域で大きな注目を集めたのは、2019年にオックスフォード大学のneilらの研究です。

NeilらはニューロペプチドYの上昇と心筋梗塞の予後が大きく関連していることを明らかにしたのです。

これを機にニューロペプチドYという神経伝達物質と心機能との関連が進められるようになりました。

 

ニューロペプチドYとは?

ニューロペプチドYは心臓の神経接合部から、カテコラミンなどと一緒に放出されます。

 

ニューロペプチドY(NPY)という神経伝達物質は、1980年代に豚の脳から抽出された内因性生理活性ペプチドで、36個のアミノ酸より構成されていることが明らかにされました。

ニューロペプチドYは哺乳類の脳や末梢交感神経末端に広く分布し、心臓においては冠動脈周囲の交感神経末端に多く存在し、循環動態に重要な働きを果たしています。

そんな中、Neurocardiology Research CenterのOlujimaらは、心筋梗塞だけでなく、心不全患者の予後にもニューロペプチドYが関係しているのではないかと疑問を呈しました。

 

カテコラミンの増加が、心不全と関連があることはこれまでに報告されていましたが、ニューロペプチドYとの関連はこれまで明らかとなっておりませんでした。

 

今回は、ニューロペプチドYと心不全の関係について考えていきましょう。

 

ニューロペプチドYと心不全

健常者のニューロペプチドYは約4.5±2.5pg/dLと言われております。

Olujimaらが、心不全患者(HFrEF)105人を対象にニューロペプチドYを調べた結果、健常者と比較して顕著に上昇していることがわかりました。

 

中でもニューロペプチドYの値を 130pgを基準に比較してみると、≧130pg/mL以上の患者は、<130pg/mLの患者よりも約9.5倍死亡率が上がることを示したのです。

 

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ニューロペプチドYの作用とは?

これまでに

・血管収縮作用

・副交感神経の活動を抑制

・心筋カルシウムの活動増加

がニューロペプチドY作用として報告されており、微小血管の機能障害や心筋障害で上昇することがneilらによって示されております。

 

ではこのニューロペプチドYは何が原因で上昇するのでしょうか?

 

現在、不明な点が多く、明確な答えは得られていませんが、

基礎研究にて、心筋梗塞を発症した豚の星状神経節のニューロペプチドY免疫反応が増加することが明らかとなっております。

 

今回、ニューロペプチドYの値を≧130pg/mL(予後不良群)と<130pg/mL(予後良好群)で患者背景を比べたところ、糖尿病、高血圧、腎機能障害、6分間歩行テストがニューロペプチドY≧130pg/mL(予後不良群)有意に関連することがわかりました。

 

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また、ニューロペプチドYの放出はアドレナリン作動とも関連していると言われております。130pg/mLを超えると重度のアドレナリン過剰分泌を来している状態であると考えられます。

 

ニューロペプチドYが高い=心機能が悪いなのか??

 

これまでニューロペプチドYの上昇が心不全や心筋梗塞と関連を認めることが示されました。しかし、必ずしも、心機能が悪い=ニューロペプチドYが高値というわけではないようです。

 

拡張能が低下すると、ニューロペプチドYは低下することが分かったのです。

確かに、Olujimaらは収縮能が低い心不全(HFrEF)を対象としておりました。

 

つまり、拡張能が低下する心不全(HFpEF)の場合はニューロペプチドYが過小評価されてしまう可能性があるため、心機能の予後として使えないと可能性が上げられました。

また、ニューロペプチドYがNYHA分類とは関連しないことも明らかとなりました。

 

これらのことから、ニューロペプチドYの値の解釈には気を付けなければならないことがわかりました。

 

まとめ

ニューロペプチドYという神経伝達物質は心筋梗塞や心不全などの心疾患の生命予後を予測する指標になると考えます。

 

今回の研究で分かったこと。

・ニューロペプチドYは腎機能、6分間歩行テストと関連がある。

・ニューロペプチドYは死亡率、心不全再入院率の増加に関連がある。

 

私自身、理学療法士として今回注目するのが、6分間歩行テストとニューロペプチドY

に関連があるということです。

 

もしかすると今後、ニューロペプチドYを減らして長生きするために運動耐用能を上げよう!という考え方が生まれてくるかもしれませんね。

 

 

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